JOURNAL

ジャーナル

2025.03.01

Cows, Cream, and Crews. – Yuya Sakamoto

牛とともに生きる。船方農場の牛への情熱とこだわりとは?

私たちが自信をもって提供する乳製品の背景には、スタッフたちの情熱とこだわりがあります。彼らは牧場での一日の始まりから終わりまで、細やかな気配りと確かな技術で乳製品の加工や販売に取り組んでいます。今回は、そんなスタッフの魅力に迫ります。

坂本雄也さん船方農場を支える若きエース

農業は大嫌いだった。休みも少ないし、とっても大変そうだから。

農家の息子として生まれながら、幼少期から牛や農場が身近な存在だったと思われがちですが、実際には全くそうではありませんでした。私の祖父は船方農場の創設者であり、父は現理事長。農業一家の出身であることは誇りに思いますが、実際には牛舎を訪れる機会はほとんどありませんでした。土日に家族で遠出することもなく、農家の息子という自覚はむしろ恥ずかしいものでした。

子供の頃は農業に対する興味や愛着よりも、週休二日で休みも多く、自由な時間がたくさんある職業に就きたいと考えていました。

高校や大学に進学してから、私の船方農場へのイメージは徐々に変わっていきました。特に夏休みなどに農場で手伝いをする機会が増えたことで、その変化を感じるようになりました。小さな子供やその親御さんから、「船方農場の牛乳は本当に美味しいですね!」「うちの子が普段はあまり牛乳を飲まないのですが、船方農場の牛乳は驚くほど飲んでいます」といった感想を聞くたびに、自分もとても嬉しくなりました。そして、祖父が農業界で果たしてきた役割や、農業を変えようとする情熱を知るようになりました。

徐々に、私もその夢を共有し、父たちの背中に憧れるようになっていきました。ある時、大学生だった私は船方農場での仕事を希望しましたが、父からは「農業は甘いものではない。知識も技術もないのに甘く見るな」と一蹴されました。それは悔しい思いでもありましたが、同時にその言葉にも納得しました。船方農場の根幹は酪農であり、そのためには牛に関する知識や技術が欠かせません。

その後、牛の知識と技術を身につけるために、岡山にある酪農大学校に通い、2年間の学びの後、船方農場に就職しました。

教科書通りに忠実に。就職して感じた苦悩と葛藤。

最初の難関は人工授精でした。牛は当たり前ですが、お乳を出すためには赤ちゃんを産まなければなりません。しかし、そのお乳が永遠に出続けるわけではなく、一年ほど経つとほとんど出なくなります。ですから、再び赤ちゃんを産んでもらうためには人工的に授精してあげる必要があります。

そのためには、技術的なことはもちろんですが、タイミングや牛の体調・状態を見極めることも非常に重要です。まさに繊細な作業でした。最初はドキドキするばかりでしたが、経験を積むごとにコツがわかってきました。牛たちとのコミュニケーションも重要であり、自分の感覚を信じることも大切だということがわかってきました。 農業は教科書の知識だけでなく、実際の現場での経験も必要だと思うようになりました。しかし、その分、やりがいも感じられ、成長も実感できるんです。

いい牛乳はいい土から。わたしたちが半世紀かけてたどり着いたこと。

ふと、何が「良い牛乳」なのか考えることがありました。脂肪分が高くて濃い牛乳?それとも低温殺菌?ノンホモ?それともオーガニック牛乳? 人それぞれにとって都合の良いものが「良い牛乳」なのかもしれません。しかし、私にはその答えが見えませんでした。悩みながらも日々を過ごしていたある日、ふと思いつきました。

「良い牛乳は、健康な牛から頂いたもの」

そうです、健康な牛が良い牛乳を生み出すのです。そして、健康な牛は良い餌から、良い餌は良い土から生まれるのです。つまり、良い牛乳は良い土から生まれるのです。

これが私のスローガンであり使命です。そのために、船方農場では何ができるかを考えました。

まずは、輸入飼料ではなく、自分たちの育てたものを食べさせたいと考えました。その取り組みの一環として、水田を利用した飼料稲の栽培に着手しました。この地域は水田が豊富で、水も美味しいです。広大な草地はありませんが、田んぼはたくさんあります。

この取り組みが徐々に軌道に乗り、約3年前からは、デントコーンと呼ばれるとうもろこしの栽培に取り組むことになりました。今では、牛たちの飼料の約50%を、自分たちの育てた作物で賄っています。

現在は、より良い土を作り、放牧酪農に向けて動き出しています。そのために不可欠なのが、実は牛の糞だということに、最近やっと気づきました。糞は単なる処理物ではなく、実は非常に重要な資源であり、宝の山なのです。土の話は深すぎるので省略しますが、これが私たちの今後の大きな方針です。

原点回帰。里山放牧という新たな挑戦に向けて

放牧酪農に挑戦することは、私にとっての大きな決断でした。長年にわたって、酪農に携わる農家を見てきましたが、放牧酪農に特化した農場は全国でも実はほとんどありません。

しかし、私は放牧酪農の可能性に魅了されました。北海道の牧場を訪れたとき、草原に放たれた牛たちが、草を食べたり、自由に歩き回ったりしている姿に、自然と笑顔がこぼれました。彼らの丈夫な足腰を見て、放牧の健康的な生活がどれほど重要かがよく分かりました。

また、牛たちが草を食べて牛乳を生み出し、私たちがそれをチーズやバター、ヨーグルトなどの美味しい乳製品に加工する様子に、新たな魅力を感じました。

放牧酪農は、地域と環境に配慮した酪農の形態として、世界中で注目されています。私たちの農場でも、自然と共存し、牛たちが健康的に育つように、細心の注意を払っています。

放牧酪農には、多くの困難や挑戦が待ち受けていますが、それでも私たちは、牛たちや地域のために、全力で取り組んでいます。これからも、美味しい乳製品を提供し、地域に貢献する農場を目指して、日々精進していきます。

みんなの手元に届くまで、できる限りのことを自分達で

船方農場では、牛の世話だけでなく、加工から販売まで全て自分たちで行っているんです。そのため、普段見ることのできない牧場の日常や景色、牛たちの成長などを写真に収めて、皆に共有しています。HPやインスタでアップしている写真や動画のほとんどは、私たちが撮影したものです。

商品写真も悩みながら取り組んでいますが、自分たちが一番知っているから、最高の瞬間を切り取ることに全力を注いでいます。何よりも、自分たちの手でできることはすべてやりたいと思っています。牧場と商品を通じて、皆に少しでも幸せを届けたいからです。