JOURNAL

ジャーナル

風景の体温—— Photo Essays#02

2025年12月 / December 2025

雪の日のまなざし

柵の向こうで、牛がじっとこちらを見ていた。
雪は音もなく降り続け、毛並みや耳、鼻先に静かに積もっている。
黒い体に白が点描のように残り、
まるで時間そのものが止まってしまったかのようだった。

この日の雪は、激しさよりも「深さ」を持っていた。
風は弱く、世界の輪郭だけがゆっくりと薄れていく。
遠くの牛舎も、牧草地も、すべてが白の中に溶け込んでいく。
そんな中で、この牛の目だけが、不思議なほどはっきりとしていた。

牛は、何も語らない。
ただそこに立ち、雪を受け止め、今日という一日を生きている。
人間の都合や暦とは関係なく、
寒さも、静けさも、当たり前のものとして受け入れている。

農場の仕事は、雪の日でも止まらない。
むしろ、こういう日ほど、ひとつひとつの動作が慎重になる。
足元を確かめ、牛の体調を確かめ、
いつもと同じことを、いつも以上に丁寧に繰り返す。

この牛のまなざしを見ていると、
「生きる」ということは、決して派手なことではないのだと気づかされる。
ただ今日をちゃんと過ごすこと。
寒い日には寒いなりに、静かな日には静かななりに。

雪はやがて溶け、牧草地はまた緑を取り戻す。
けれど、この一瞬――
白に包まれた中で交わされた、言葉のない視線は、
確かにこの農場の時間の中に刻まれている。

今日もここで、命は静かに続いている。