ジャーナル

11月。
阿東の秋はまだ真っ盛りで、
朝日が牧草地をゆっくりと満たしていく。
草には夜の名残がわずかに残り、
光が触れるたびにその輪郭が立ち上がる。
牛たちの吐く息は白いけれど、
それは冬の訪れというより、
今の季節が一番美しく深まっている印のようにも見える。
澄んだ空気の中で、草を食む音だけが
やさしく広がっていく。
秋の放牧は、毎日が少し違う。
光の角度も、風のにおいも、
昨日よりすこしだけ秋を深くしている。
牛たちは、その変化に体ごと寄り添うように、
草の上をゆったりと歩く。
今年の放牧も、
終わりに向かう気配はたしかにある。
けれど、それは“明日の話”ではなく、
今日の光をより鮮やかにするための
遠い風のようなものだ。
今はまだ、秋の真ん中。
草の色も、空の高さも、
季節がもっと先へ進もうとする前の
いちばん豊かな時間。
光を受けながら草を食む牛たちの姿に、
その“いま”が静かに宿っていた。
秋は、ゆっくりと深まっていく。
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船方農場 酪農部長
坂本雄也
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