ジャーナル
2026.01.26
— 雪の下で、次の季節が準備されている —

阿東徳佐は、「山口県の北海道」だと思っています。
同じ山口県内でも、ここまで冬の表情が違うのかと驚かれることがあるほど、
雪が多く、冷え込みの厳しい地域です。
朝、農場に出ると、空気は張りつめ、
息を吐くたびに白く曇ります。
雪に覆われた山、田んぼ、そして農場。
音が吸い込まれたような静けさの中で、
阿東徳佐の冬が本格的に始まったことを実感します。
冬の間、船方農場では放牧は行っていません。
牛たちは牛舎で過ごし、外の放牧地は雪の下で静かに休んでいます。
一見すると、農場全体が止まっているように見える季節です。
人にとっては、とても寒く、厳しい冬です。
外に出るのをためらう日もありますし、
作業もいつも以上に気を使います。
「雪がなければ楽なのに」と思うことがないわけではありません。
それでも、この土地で農業をしていると、
雪はただ大変な存在ではないと感じるようになります。

実は、牛は寒さにとても強い動物です。
もともと寒冷地でも生きてきた歴史があり、
冬になると毛が伸び、体の表面に空気の層をつくって寒さを防ぎます。
さらに、反芻によってエサを消化する過程で体の中に熱が生まれ、
自分の力で体温を保つことができます。
私たち人が「とても寒い」と感じる気温でも、
牛にとっては過ごしやすいことも少なくありません。
だからこそ、冬の管理で大切なのは、
人の感覚で守りすぎないことだと感じています。
風を防ぐこと。
乾いた寝床を用意すること。
そして、しっかりとエサを食べられる環境を整えること。
それさえあれば、牛はこの阿東徳佐の冬を、
自分のペースで、落ち着いて乗り越えていきます。
雪は、牛だけでなく、この土地全体にとっても欠かせない存在です。

山に積もった雪は、すぐには溶けません。
春に向かって、ゆっくりと時間をかけて水になり、
土にしみ込み、川へと流れていきます。
一気に流れないからこそ、
山は水を蓄え、里へと安定した水を届けてくれます。
雪は、山が次の季節を迎えるための準備期間のように感じられます。
田んぼも、雪の下で静かに休んでいます。
外から見ると、何も起きていないように見えますが、
その下では土が冷やされ、余分なものが整えられ、
微生物のリズムも落ち着いていきます。
春に水を張ったときの土の感触や水のやわらかさに、
冬の雪の影響を感じることがあります。
放牧地もまた、冬の間は使わずに休ませています。
草は雪に守られ、寒さや踏圧から解放されます。
何もしていないように見えるこの時間が、
春に一気に草が伸び、牛たちを迎えるための大切な準備になっています。
雪が少ない年は、確かに作業は楽になります。
ですが、春が近づくにつれて、
どこか落ち着かない気持ちになることがあります。
この土地はちゃんと休めただろうか。
水は足りるだろうか。
それほどまでに、雪は阿東徳佐の農業のリズムの一部になっています。
農業は、何かをすることだけが仕事ではありません。
待つこと、休ませること、
生きものや自然の力を信じて任せることも、大切な営みです。
冬は、そのことを強く感じさせてくれる季節です。
山口県の北海道とも言えるこの阿東徳佐で、
牛は牛のペースで、
土地は土地のペースで、
次の季節に向けた準備を続けています。
その流れの中に、私たち人も身を置いています。

船方農場では、土日祝日に農場内のカフェをオープンしています。
カフェは室内にあり、雪の日でもゆっくりとあたたまって過ごしていただけます。
平日も、基本的に農場は開放しており、
どなたでもこの土地の空気を感じていただけます。
雪が降った日には、
ぜひ農場に遊びに来てください。
雪だるまを作ったり、かまくらを掘ったり、そりすべりをしたり。
外で思いきり遊んだあとは、
カフェで体をあたためながら、阿東徳佐の冬を味わってもらえたらうれしいです。
人にとっては厳しく感じる冬も、
その下では、確かに次の季節への準備が進んでいます。
雪の静けさの中で流れる時間を、
農場で一緒に感じていただけたらと思います。