ジャーナル
2025.08.19

牛乳は、白くていつも同じに見えますが、実際にはその味わいは四季によって大きく変わります。
牛が食べる草、飲む水、そして季節の空気。そのすべてが、一杯の牛乳に映し出されるのです。
船方農場では、牛に清らかな山水を飲ませています。山から湧き出る水はただの自然水ではなく、水質検査をきちんと行い、安全性を確認したものです。その安心できる水と、季節ごとに変わる草を組み合わせることで、牛乳は四季を映す飲み物となります。
もちろん、完全放牧ではなく牛舎で乾草やサイレージも与えています。それでも、自然のリズムは確実に牛乳の風味に現れています。

春の牧草は柔らかく、栄養価に富んでいます。青草を食むことで、牛乳は軽やかで甘みのある風味を帯びます。青草中心の食事は乳脂肪をやや低めにするため、春の牛乳は爽やかで飲みやすいのが特徴です。

体温の高い牛は夏の暑さに弱く、体を冷やすために大量の山水を飲みます。清らかな水をしっかりと取り込んだ牛乳は、さっぱりと軽やかになります。青草と水、そして牛舎の飼料をあわせて取り入れながらつくられる夏の牛乳は、涼しさを感じさせる味わいです。

秋になると青草の勢いが落ち、乾草やサイレージの割合が増えます。そのため牛乳はまろやかさを増し、厚みのある風味に変わっていきます。乳脂肪やタンパク質も少しずつ高まり、落ち着いた味わいが楽しめます。

寒い冬、牛は水をあまり飲まなくなり、乾草中心の食事になります。その結果、牛乳は濃厚でコクのある味わいに変化します。冷たい山水と冬の空気が映し込まれた冬の牛乳は、静けさを閉じ込めたような一杯です。

船方農場の放牧はまだ始まったばかりで、完全な形には至っていません。
しかし、牛が草を食み、山水を飲み、四季を過ごすことで、牛乳の味わいに少しずつ変化が生まれてきています。
これから放牧を進めていけば、牛乳はさらに豊かな風味を見せてくれるはずです。
私たちは「均一な工業製品」としての牛乳ではなく、自然とともに変化する「生きた牛乳」をお届けしていきたいと考えています。
春は軽やかに、夏は涼やかに、秋はまろやかに、冬は濃厚に。
その違いを、安心して、そして楽しんで味わっていただけるよう、これからも歩みを続けてまいります。

祖父や父が向き合ってきた農業と、そこに込めた未来への熱量に惹かれ、工学部を中退。
酪農の専門大学を卒業後、船方農場へ。
現在は酪農と情報発信を担当。趣味はカメラ。
農業は、もっとも手ざわりのあるクリエイティブだと思っている。