ジャーナル
2025.12.11
―― 坂本 × 社長 × 三戸(加工部)
冬の入り口。阿東の朝は透き通った冷たさに包まれ、放牧地の先には白い靄が静かに揺れていた。
牛舎から聞こえる低い鳴き声と、土の上を風が走る音。そのすべてが、季節の変わり目を知らせている。
そんな空気の中、酪農部の坂本、船方農場の社長、加工部の三戸さんの3人が、テーブルを囲んで座った。
「久しぶりにきちんと話そう」と集まったこの収録は、ポッドキャストとして記録されるが、
ここではもっと自然体で、3人の“対話そのもの”を一つの記事としてまとめている。
「今年は放牧に出す期間をしっかり確保できましたよね。
牛たちの状態が本当に良くなってきているのを感じます。足腰も強くなっていますし、毛艶もすごく良くなりました。」
社長はその言葉に深く頷きながら話を続けた。
「放牧はやるだけではダメで、タイミングが大事。今年の秋は理想的な時期に種まきができた。
それだけで来年の春の出だしは大きく変わると思う。」
三戸さんが興味深そうに質問する。
「放牧はやっぱり天候の影響が大きいんですか?」
「もちろん大きいですよ。でも、自然と向き合いながら牛と調和していく姿勢こそ、船方農場らしさだと思います。」
坂本も続ける。
「自然のリズムと合わせながら仕事をするという感覚が、今年は特に強く感じられましたね。」
放牧を通じて見える“牛らしい牛の姿”。
それは酪農の原点を改めて思い起こさせ、農場全体の方向性を確かにしてくれる。
話は自然と来年の夏の暑さ対策へ向かった。近年の猛暑は、牛にも人にも大きな負担を与えている。
「今年の夏は本当に厳しかったので、来年は早めに対策しておきたいと思っています。」
社長も深く同意する。
「暑さ対策は、暑くなってから考えても遅いんだよね。冬のうちに準備しておくことが大切。」
すると三戸さんが、少し前に社長と話した内容を思い出したように言う。
「“風神”っていう大型の冷風ファン、すごかったです。ミストじゃないので湿度が上がらないんですよね。」
「そう。湿度が上がると乳房炎のリスクが出てしまうから、ただ冷やせばいいわけじゃない。
冷風で環境を整えるという考え方は、今後の牛舎には重要な選択肢になると思います。」
坂本も補足する。
「夏のストレスが繁殖にも影響しますし、牛舎を快適に保てる環境づくりは本当に大切ですね。」
3人の言葉から、すでに来年の夏を見据えて動き出している様子が感じられた。
そこから話題は加工部へ。三戸さんが、少し笑いながら口を開く。
「加工部は、ありがたいことに12月が一年で一番忙しい月です。
ギフト、お肉祭り、冷凍ピザ…。特にピザは2〜3週間で1000枚くらい出ます。」
社長は少し驚いたように笑いながら言う。
「1000枚はすごいね。船方の冬の名物になってきている気がする。」
坂本も続ける。
「家族で集まる機会が増える季節だからこそ、ピザやチーズケーキが喜ばれるんでしょうね。
食卓に船方のものが並ぶと思うと嬉しいです。」
ここで、坂本が少し声のトーンを上げて言った。
「そして、いよいよ“生ミルクソフト(カップソフト)”が完成に近づいてきましたね。」
三戸さんの表情が一段明るくなる。
「はい。うちの人気ソフトクリームを、ご家庭でもそのまま楽しめるようにしたカップタイプです。
試作は何度もしましたが、かなり良い仕上がりになっています。」
社長も嬉しそうに言葉を添える。
「船方のソフトクリームは“バニラ味ではないミルク味”。
その個性をそのまま届けられるのは嬉しいね。」
「バニラビーンズを使わずに“牛乳の味そのもの”で勝負しているので、
その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいですね。」
坂本は、「これは本当に楽しみです」と嬉しそうにまとめた。
続いて、三戸さんが取り組んでいる長期熟成チーズの話題へ。
「ハードチーズの熟成、順調ですか?」
「はい。今年の春に仕込んだチーズを、毎日磨きながら熟成させています。
食塩水で磨く方法、ワインで磨く方法など、試しながら理想の熟成を探っています。」
社長が興味深そうに尋ねる。
「スターター菌は途中で役目を終えるんだったよね?」
「そうです。大体3ヶ月でスターター菌は死んでしまうんですが、
そこから味を作るのは“もともと生乳にいた菌”なんです。
つまり、土や草、牧場の環境がそのまま味の個性になります。」
社長はその話に深くうなずく。
「面白いね。どれくらい熟成できるものなんだろう?」
「状態がよければ5年はいけます。長く置けば置くほど、深みが出ていくと思います。」
坂本が微笑みながら言う。
「5年後、みんなで試食したいですね。」
3人の間に、静かだが確かな高揚感が生まれた。
ここで社長がふと、別の話題を持ち出した。
「最近、牛乳に何が一番合うのか考えていたんだ。」
坂本と三戸さんが少し身を乗り出す。
「クッキーとか、パンとか…いろいろありそうですよね。」
社長はゆっくりと微笑みながら、確信のある声で言った。
「結論は“アンパン”だと思った。」
三戸さんが思わず笑顔になる。
「アンパンですか?」
「パンが牛乳を吸うあの感じ、あんこの甘さとのバランス。
驚くほど合うんだよ。ぜひ一度試してみてほしい。」
坂本は共感しながら言う。
「本当に合いますよね。懐かしいのに、新鮮な組み合わせで。」
小さな話題のようでいて、どこか船方農場らしい“食の素朴な楽しみ方”がそこにはあった。
そして最後に坂本が、自分の最近の習慣を話し始めた。
「寝る前にホットミルクに日本蜜蜂の蜂蜜を少し入れて飲むのが、すごく良くて。」
三戸さんが興味深そうに耳を傾ける。
「美味しそうですね。」
「甘すぎず、牛乳の持つ自然な甘さが引き立つんです。
それを飲むと、気持ちがゆっくりしてスマホを置けるようになるんですよ。」
社長も穏やかに頷いた。
「冬の夜にちょうど良いね。農場のマグカップで飲むのも良さそうだ。」
その光景は、忙しい毎日の中でふっと心が整う、そんな小さな習慣のようだった。
対談の終わりが近づき、社長が静かに言葉をまとめた。
「牧場は365日動き続けている。冬でも同じ。
でも、冬にしておける準備が、春の結果につながる。」
坂本が続ける。
「来年に向けて、冬のうちにできることを積み重ねていきたいですね。」
三戸さんも、穏やかに言葉を重ねた。
「商品づくりも、熟成チーズも、来年きっともっと形になります。」
冬は静かで、外の景色は凍えるように見えるけれど、
農場の内部ではすでに“次の季節の準備”が始まっている。

祖父や父が向き合ってきた農業と、そこに込めた未来への熱量に惹かれ、工学部を中退。
酪農の専門大学を卒業後、船方農場へ。
現在は酪農と情報発信を担当。趣味はカメラ。
農業は、もっとも手ざわりのあるクリエイティブだと思っている。