JOURNAL

ジャーナル

バターは、牛乳からできていない。

― 土から始まる、船方農場の発酵バターの話 ―

「バターは牛乳からできています。」

そう答えると、もちろん正解です。

でも、私たちは少し違う考え方をしています。

船方農場では、バターは牛乳からではなく、

土からできている。

そう考えています。

少し不思議に聞こえるかもしれません。

でも、その理由を知ると、一切れのバターが今までとは違って見えてくるはずです。

バターとマーガリン。その違いを知っていますか?

スーパーへ行くと、

バター、
発酵バター、
マーガリン、
ファットスプレッド……

さまざまな商品が並んでいます。

「どれも似たようなものじゃないの?」

そう思われる方も多いかもしれません。

実は、まったく違う食品です。

バター

バターは牛乳からクリームを取り出し、そのクリームを攪拌して乳脂肪を固めたもの。

原料はほぼ牛乳だけです。

だからこそ、牛乳がおいしくなければ、おいしいバターにはなりません。

マーガリン

一方、マーガリンは植物油を主な原料として作られる食品です。

植物油に水や乳成分、食塩などを加え、乳化させて作ります。

つまり、

バターとマーガリンは、そもそもの原料が違う食品なのです。

どちらが絶対に良い、悪いという話ではありません。

マーガリンには塗りやすさや価格、保存性などのメリットがありますし、現在ではトランス脂肪酸を抑えた製品も数多くあります。

それぞれに役割があります。

発酵バターは、何が違うのか。

普通のバターは、新鮮なクリームをそのまま攪拌して作ります。

一方、発酵バターは、その前に乳酸菌でクリームをゆっくり発酵させます。

このひと手間によって、

・ナッツのような香ばしさ

・ヨーグルトのような爽やかな香り

・奥行きのあるコク

が生まれます。

ワインやチーズのように、

時間が味を育てる。

それが発酵バターです。

だから料理人やパン職人が、発酵バターを選ぶ理由にもなっています。

放牧は、牛乳の中身まで変える。

ここからが、船方農場が一番お伝えしたいことです。

牛は本来、草を食べる動物です。

放牧では、自分で歩き、自分で草を選びながら食べています。

この青草には、

β-カロテン

ビタミンE

オメガ3脂肪酸のもととなる成分

などが豊富に含まれています。

そのため、放牧牛の牛乳は、舎飼い中心の牛乳と比べて脂肪酸組成が異なる傾向があることが、多くの研究で報告されています。

黄色いバターは、「草の色」。

「船方農場のバターは少し黄色いですね。」

そう言われることがあります。

実は、あの黄色は着色ではありません。

青草に多く含まれるβ-カロテンという天然色素です。

牛が草を食べ、

β-カロテンが牛乳へ移り、

クリームになり、

そしてバターになります。

つまり、

バターの黄色は、草の色。

β-カロテンは体内で必要に応じてビタミンAへ変換され、目や皮膚、粘膜の健康維持を助ける栄養素として知られています。

だから私たちは、黄色いバターを見るたびに、

「この牛は、しっかり草を食べて育ったんだ。」

そんなことまで感じてもらえたら嬉しいと思っています。

オメガ3脂肪酸という贈りもの。

近年よく耳にするオメガ3脂肪酸。

実は放牧牛乳にも比較的多く含まれる傾向があります。

オメガ3脂肪酸は、人の体内でほとんど作ることができない必須脂肪酸です。

健康的な食生活との関わりが研究されており、青魚やえごま油、亜麻仁油などにも多く含まれています。

また、放牧牛乳には

CLA(共役リノール酸)

という脂肪酸も比較的多く含まれる傾向があります。

これは牛の第一胃(ルーメン)の微生物が青草を発酵させることで生まれる成分です。

CLAについても、人の健康との関わりが世界中で研究されています。

もちろん、

「このバターを食べれば健康になる」

そんなことは私たちは言えません。

しかし、

牛が自然に草を食べることで生まれる栄養の違いがあることは、多くの研究で示されています。

実は、牛も発酵している。

発酵バターというと、

乳酸菌で発酵させたバター。

そう思われる方がほとんどでしょう。

もちろん、それも正解です。

でも、その前に牛自身が毎日「発酵」をしています。

牛は四つの胃を持つ反芻動物です。

第一胃(ルーメン)の中には、数え切れないほどの微生物が暮らしています。

その微生物たちが草を発酵させ、牛が利用できる栄養へと変えてくれるのです。

つまり、

牛乳は、

草を食べただけではできません。

微生物の力による発酵があって初めて生まれます。

そして、その牛乳を今度は乳酸菌で発酵させる。

発酵バターとは、

二つの発酵を経て生まれる食品なのです。

土が変われば、バターも変わる。

私たちが一番大切にしているのは、

牛でも、

牛乳でも、

バターでもありません。

土です。

健康な土には、多様な微生物が暮らしています。

その微生物が草を育て、

草が牛を育て、

牛が牛乳をつくり、

牛乳が発酵バターになります。

だから私たちは、

酪農とは牛を育てる仕事ではなく、

土を育てる仕事だと思っています。

一片のバターの向こう側。

パンに塗られた一片のバター。

その向こうには、

土があります。

草があります。

牛がいます。

微生物がいます。

そして、そのすべてを見守る人がいます。

私たちが届けたいのは、

バターだけではありません。

この土地で積み重ねてきた時間。

命のつながり。

牧場の風景。

そのすべてを、一緒に味わっていただけたら嬉しいです。

船方農場の発酵バターは、

土から始まる、一つの物語です。

書いた人:坂本雄也(さかもと・ゆうや)

祖父や父が向き合ってきた農業と、そこに込めた未来への熱量に惹かれ、工学部を中退。
酪農の専門大学を卒業後、船方農場へ。
現在は酪農と情報発信を担当。趣味はカメラ。
農業は、もっとも手ざわりのあるクリエイティブだと思っている。