ジャーナル
2025.06.06
山口・阿東の空がまだ薄暗い頃、船方農場の1日は静かに動きはじめます。
朝5時、搾乳スタート。牛たちと呼吸を合わせるように、1頭ずつ丁寧にミルクを搾る。気温、匂い、牛の表情…、毎朝違う“空気”を感じながらの作業です。
朝食のメニューはまず牧草から。牛たちの胃の中に“ルーメンマット”という草のクッションをつくってから、トウモロコシなどの飼料を与えます。これを逆にすると、例えるなら朝から揚げ物を食べて、そのあとにサラダを食べるようなもの。胃にやさしいリズムを大事にしています。
放牧牛たちは自分たちで草を食み、作業はぐっとシンプルに。でも、どの牛にも同じ時間に、同じリズムで接することを大切にしています。それだけでストレスが大きく減るから。
朝7時半。搾りたてのミルクがタンクローリーで工場へ。
殺菌・冷却・充填を経て牛乳やヨーグルトになっていきます。
バターはさらに手間と時間がかかります。
精乳700kgから取れるクリームは約10%。さらにそこから出来上がるバターはわずか32〜33kg。まるで選ばれし“精鋭”のようです。
発酵、チャーニング、ワーキング(練り)。なかでも水分を極限まで抜くワーキングは、丸1日かかる重労働。朝から夕方まで、ひたすらこねる。それでも、「もっといいものを作りたい」と思える工程です。
一番好きな仕事を聞かれたら、「朝の搾乳」と答えます。
まだ日が昇る前、牛舎の空気が澄んでいて、だんだんと朝焼けが差し込んでくるその時間が好きです。
加工担当の三戸さんは「チーズづくり」がいちばん好きだと言います。微生物(きん)と対話しながら、環境を整え、じっくりと熟成させていく。季節、湿度、温度によって表情が変わるチーズたち。まるで自然と話してるような仕事です。
(📷 写真案:牛たちの顔のアップ/仲良く並ぶ2頭)
臆病な子、人懐っこい子、リーダー肌の子。
搾乳の順番にも“性格”がにじみ出ます。朝一番にやってくるのは、ちょっと几帳面な牛たち。その後ろに控えるのは控えめな子たち。最後にくるのは…ちょっとやんちゃな“ヤンキー系”の牛たちです。
でも、いつもと違う順番になると「あれ?」と気づける。体調の変化やケガを早く発見するヒントにもなります。だから毎日が、観察の連続なんです。
「味噌職人になってたかも」
「ぬか漬け、やりたいんですよね」
「出版の仕事にも、ちょっと憧れがあります」
でも結局、誰もが“何かを作る人”をやっていた気がします。
チーズも、バターも、牛乳も、全部「つくる」ことで誰かの暮らしとつながっていく。それが、僕たちの原点です。
牛たちと向き合う毎日は、言ってしまえば地味な繰り返しです。
でも、その一つひとつの積み重ねが、たしかに味になって、香りになって、誰かの食卓に届いている。
これからも、そんな日々を「ジャーナル」という形で綴っていきます。
読んでくださって、ありがとうございました。