ジャーナル

4月、放牧が始まったばかりの船方農場を歩いていると、ふと甘い香りがすることがあります。
その香りの正体は、春の草。
冬を越え、伸び始めたばかりの牧草はみずみずしく、牛たちはその草を自分で選びながら食べていきます。
今年の春は特に、その変化を強く感じるシーズンでした。
船方農場では、春から秋にかけて牛たちを放牧しています。
4月に放牧が始まり、牛たちが青草を食べるようになると、ミルクにも少しずつ変化が現れます。
今年は特にその変化が大きく、春から初夏にかけてのミルクは、私たち自身も驚くほど黄色みを帯びていました。
そして、そのミルクからつくったチーズもまた、いつも以上に鮮やかな黄色に。
毎日牛乳を扱っている私たちでも、
「ここまで変わるんだ。」
と思うほどでした。
牛乳は一年中同じように見えて、実は、牛たちが何を食べ、どんな季節を過ごしているのかが、その中に表れているのかもしれません。

その春のミルクを使って、4月に仕込んだのが船方農場のゴーダチーズです。
ゴーダは、つくってすぐに完成するチーズではありません。
仕込んでから熟成庫で時間をかけて寝かせ、少しずつ味や香りを育てていきます。
船方農場では4か月以上熟成させ、4〜5か月ほど経った頃から食べ頃を迎えます。
つまり、4月に放牧地で牛たちが食べていた春の草が、牛乳になり、チーズになり、時間をかけて熟成されて——
9月になった今、ようやく私たちの食卓に並び始める。
そう考えると、一切れのチーズの見え方も少し変わってきます。

今回の船方ファームラジオでは、そんな話から「そもそも僕たちはチーズの楽しみ方をどこまで知っているんだろう?」という話になりました。
ゴーダチーズは、冷蔵庫から出してすぐに食べるより、少し室温に置いておくと香りが立ってきます。
まずは、そのまま。
そこから黒胡椒や蜂蜜を合わせたり、ズッキーニや茄子にのせて焼いたり。
船方農場のベーコンと合わせれば、塩気と旨味も加わります。
同じチーズでも、温度や切り方、合わせる食材によって楽しみ方は変わります。
ワインやウイスキーを知れば知るほど楽しみ方が増えていくように、チーズにも、まだ私たち自身が知らない世界がたくさんあります。
いいものをつくること。
そして、その背景や、一番おいしい食べ方まで伝えること。
これからは、その両方をもっと大切にしていきたいと思っています。

ちょうど今、船方農場では稲刈りの真っ最中です。
今年のお米は粒が大きく、収量も多く、私たちが見ても「過去一かもしれない」と感じるほどの出来になっています。
春に田植えをした稲が、秋に新米になる。
春の草を食べた牛のミルクから仕込んだチーズが、秋に食べ頃になる。
農場で仕事をしていると、春に始めた仕事の答えが、何か月も経ってから返ってくることがあります。
季節をまたいで、食べものが出来上がっていく。
それもまた、農場で食べものをつくる面白さなのかもしれません。
今回の船方ファームラジオでは、今年の新米の出来から、暑い夏を乗り越えた放牧地と土づくり、季節によるミルクの変化、ゴーダチーズの熟成や食べ方まで、船方農場の「実りの秋」について話しています。
ぜひ、作業やドライブのお供にお聴きください。