ジャーナル
2025.10.13

今日は、地元の3つの小学校の低学年の子どもたちが合同で、船方農場にやってきました。
かつては一つの学校にたくさんの子どもたちの声が響いていましたが、時代の流れとともに生徒の数は減り、今ではこうした合同での活動が必要になっています。けれども、その“少なさ”は同時に、学校同士や地域とのつながりをより深めるきっかけにもなっています。農場としても、子どもたちがこうして訪れてくれることは大きな喜びであり、未来への希望でもあります。
牛舎に入ると、子どもたちの第一声は「くさい!」。けれどもすぐに「お味噌汁の匂いがする」「なんだかいい匂い」と笑い声が広がります。ひとつの匂いからこれほど多様な感想が出るのは、子どもの感受性ならでは。においを「嫌」と決めつけるのではなく、それぞれの言葉で捉え直す姿に、私たちもハッとさせられました。

最初に出会ったのは産まれたばかりの子牛。まだ小さな体で一生懸命ミルクを飲む姿に「かわいい!」と声が弾みます。哺乳瓶を持つ小さな手に力を込めて飲ませると、その子の顔は真剣そのもの。命と命がつながる瞬間に、子どもたちの表情が少し大人びて見えるのは不思議なことです。

大人の牛の牛舎に入ると、その大きさと迫力に「おっきい!」「ちょっとこわい…」と声があがります。最初は躊躇していた子も、勇気を出してそっと手を伸ばし「わぁ、温かい!」と驚いたように笑顔を見せると、次々にみんなも挑戦。牛の体温、皮膚のやわらかさ、息づかい──教科書では知ることのできない“命の実感”が、子どもたちの手のひらに伝わっていました。

乳搾り体験では、最初はどうしていいか分からず戸惑い気味。それでも手を添えてあげると、牛乳が搾れる瞬間に「出た!」「ほんとに牛乳だ!」と大歓声。毎日飲んでいる牛乳が、実際に牛の体から出てくることを知る驚きと感動は、まさに本物の学びです。
最後はみんなでバター作り。小さな手で容器をシャカシャカ振る音があちこちで響きます。「まだ?」「かたまってきた!」と期待をこめた声が重なり、やがてバターができあがると「わぁ、バターになった!」「パンに塗りたい!」と笑顔がはじけました。自分の手で作り出す体験は、子どもたちにとって格別な誇りになったはずです。

一日の終わり、帰り道に聞こえてきたのは「牛ってかわいいね」「牛さんありがとう」という言葉でした。ほんの数時間前までは牛に触れることをためらっていた子どもたちが、帰るときには牛を大好きになり、感謝の言葉をかけていく。その変化こそ、この体験の一番大きな収穫だったように思います。
少子化で子どもの数は減っても、こうした合同での学びや、地域と農場のつながりから生まれる“ならではの体験”は、確かに子どもたちの未来へつながっていきます。船方農場としても、こうした場をともに育み、次の世代へ命の恵みを伝えていくことを使命と感じています。
今日の子どもたちの笑顔と「牛さんありがとう」という言葉が、何よりの励ましになりました。これからも地域とともに歩み、命を育む農場として、未来にバトンを渡していきたいと思います。
※この体験は地元の学校との連携による特別プログラムです。一般のお客さま向けの体験ではございませんのでご了承ください。

祖父や父が向き合ってきた農業と、そこに込めた未来への熱量に惹かれ、工学部を中退。
酪農の専門大学を卒業後、船方農場へ。
現在は酪農と情報発信を担当。趣味はカメラ。
農業は、もっとも手ざわりのあるクリエイティブだと思っている。