ジャーナル
2026.02.17
—— あらおこしと溝掃除から始まる米づくり

2月17日。
暦の上では春に向かっていますが、朝の空気はまだ冷たく、吐く息が白くなります。田んぼにはまだ水は張られておらず、土の色が広がる静かな景色が続いています。
今年は山に雪がほとんどありません。
例年であれば雪解けを待つ時期ですが、今は地面がそのまま見えています。その風景に、少しだけ不安も感じます。
そんな中でも、田んぼの準備は始まっています。
船方農場では「あらおこし」と「溝掃除」に取りかかっています。目立つ作業ではありませんが、秋の実りを支える土台になる仕事です。

エンジンの音が、静かな田んぼに響きます。
トラクターがゆっくりと進み、刃が土を持ち上げ、反転させていきます。
掘り起こされた土からは、冬を越えた湿った匂いが立ちのぼります。
冷たい空気の中で、その匂いだけが少し温かく感じられます。
冬のあいだに締まった土をほぐし、空気を含ませることで、土の中の環境を整えていきます。
目に見えない微生物の働きが活発になり、前年のワラや有機物が分解され、次に植える稲が根を張りやすい状態へと変わっていきます。
米づくりは、田植えの日から始まるわけではありません。
この2月の静かな作業が、その年の基礎になります。

もうひとつの大切な仕事が溝掃除です。
スコップで泥をすくい上げる音。止まっていた水がゆっくり動き出す音。手袋越しに伝わる冷たい感触。
溝は、田んぼの水を入れたり抜いたりするための大事な通り道です。
わずかな詰まりでも、水の流れは変わります。
そして水は、船方農場の田んぼだけを流れているわけではありません。
地域の田んぼは水路でつながり、同じ水を順番に使っています。
どこか一か所が滞れば、ほかにも影響が出ます。
溝掃除は、自分たちのためであり、地域全体の水を守る仕事でもあります。

雪は、ただの冬景色ではありません。
春にゆっくり溶け、川や地下水となり、田んぼを支える大切な水源です。
しかし今年は、山に雪がほとんどありません。
雪解け水が少なければ、春から夏にかけての水の確保にも影響が出る可能性があります。
自然の変化を前にすると、不安を感じることもあります。
それでも、今できることをきちんと積み重ねるしかありません。

雪を増やすことはできません。
天候を変えることもできません。
けれど、土を整えることはできます。
水の流れを整えることはできます。
冷たい朝の空気の中で、エンジンの音とスコップの音が重なります。
その積み重ねが、やがて青い苗の風景へとつながっていきます。
派手さはありませんが、春先の準備が秋の実りをつくります。
今年も一つひとつ、丁寧に進めていきます。
今年の米づくりは、もう始まっています。


米づくりは、自然に左右される仕事です。
雪の量も、雨の降り方も、気温も、人の都合では決まりません。
だからこそ私たちは、自然の変化をきちんと受け止めながら、できる準備を怠らず、基本を大切にしていきます。
土と水を整えること。地域の水の流れを守ること。そうした当たり前を積み重ねながら、今年も良いお米づくりにつなげていきます。

祖父や父が向き合ってきた農業と、そこに込めた未来への熱量に惹かれ、工学部を中退。
酪農の専門大学を卒業後、船方農場へ。
現在は酪農と情報発信を担当。趣味はカメラ。
農業は、もっとも手ざわりのあるクリエイティブだと思っている。